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『シンギュラリティは近い』レビュー ― AIと人間の共存を見通す

シンギュラリティは近い

『シンギュラリティは近い』(レイ・カーツワイル)のレビューです。

目次

『シンギュラリティは近い』の読み方

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「シンギュラリティ」とは、一般には技術的な「特異点」を意味します。本書では、人工知能の性能が急激に向上し、人間の脳を超えるレベルに達することを指しています。2045年頃にそれが訪れるとの見解を示しています。

脳の機能の「モデル化」を通じた再構築が可能であることから、AIが脳を超えられるというのが基本的な趣旨です。

本書は、2007年頃の原書がベースのため、現時点では、最新の研究開発状況を反映できてない部分があると考えられます。その点には留意が必要でしょう。

一方で、本書の予測と近年のAI技術の状況との差分を確認することで、近年のAI技術の課題や進歩を確認することもできるでしょう。

また、2007年の時点でここまで精緻な予測を組み立てるのは、簡単ではなかったと思います。科学技術の課題へのアプローチの仕方として、勉強になる部分が大いにあります。

また、AIによる脳の完全な再現、つまりコピーができる場合、人間のアイデンティティはどうなるのか、というような哲学的な考察もあります。AIの進歩について、多角的に考えるきっかけになるはずです。

『シンギュラリティは近い』読書メモ

私の個人用のメモです。本書を読んでいて気になった箇所のポイントをメモしました。(あくまで私自身のメモであるため、内容の信頼性については責任を持てませんのでご了承ください)

(1) 六つのエポック

・収集加速の法則:人間とそれに続くテクノロジーは進化の速度は加速していく。指数関数的に。
・シンギュラリティ:生物としての思考と存在が、みずからの作り出したテクノロジーと融合する臨界点。生物としての基盤を超越。
・脳の限界を、人間と機会の統合により超越。

・シンギュラリティの原則:

  • 脳のスキャンの解像度が指数関数的に向上。
  • 人間の知能の長所(パターン認識、洞察、モデル化と言語など)と機械の知能の長所(記憶・想起・正確性・疲れない・高速処理・高速で共有)を合体。
  • 機械はインターネットを通じて知識の共有・合体が可能。
  • 生物の本質的な限界:タンパク質の構造の制約から。
  • 機械は、ナノテクノロジーによりナノボットを設計し、人体の中で多様な役割を果たすことも可能。
  • これで脳内の機械のちのうの増大も可能。
  • 最後は、宇宙全体に人間の知能がひろがる。光速が制約かどうか。

(2) テクノロジー進化の理論
・ムーアの法則は集積回路上のトランジスタ数が対象だった。計算能力とは別。
・人間の脳は効率の悪い電気化学的な処理だが、三次元の超並列組織を構成するため、驚異的な力がある。しかし人工的に構成する技術も準備段階に入っている。
・競争の激しい市場が、テクノロジーを要請し、収集加速の法則を強める。技術が経済を成長させる。

(3) 人間の脳のコンピューティング能力を実現する
・人間の脳の処理能力 10^16 cps。シナプス処理1回の計算: 10^3 cps → 脳のシミュレートの必要計算量 10^19 cps。
→ 2025年には計算機で 10^16は達成される見通し。
・人間の脳の記憶容量 10^13 (10兆) bit。ニューロン間の結合レベルのモデル化では、10^18 bit。
→ 2020年頃には安価なハードウェアで可能。
・コンピューティングの限界は、エネルギー・熱の側面が大きい。並列処理のほうが良い。人間の脳も同じで、エネルギー消費が少ない。
・NOTのような可逆計算はエネルギー消費無しで可能だが、ANDのような非可逆計算はエネルギー消費する。
→ どのようなコンピューティングも可逆的計算で構成可能。→エネルギーを使わず計算が可能。
・実際は情報の出力や、エラーの処理(誤り訂正)などの不可逆処理がある。

(4) 人間の知能のソフトウェアを実現する

・脳のリバースエンジニアリングは、知能の拡大と、神経学的な病気の問題解決につながる。
・電子工学と、脳の電気化学の速度比率は、100万対1の開きがある。
・ただし、脳は超並列処理が可能で、最大100兆回の計算を一斉に行う。超並列処理は人間のパターン認識能力の鍵となる。
・脳はアナログとデジタルの現象を併用する。
・脳の細部はランダムで確率論的。
・2020年代にはナノボットが実現され、脳のスキャンが可能となるはず。
・ナノボットは血球(7-8μm)以下のロボット。脳の毛細血管に入る。無線LANのように相互に通信する。
・ナノボットを脳の構造と結びつける上での課題は、血液・脳関門(BBB)。毒素からの防壁。
・脳のスキャンの空間時間的解像度は毎年2倍になっている。
・2020年代には、脳全体のモデル化・シミュレーションに必要なデータ収集とツールは手にできる。
・逆に、人間の脳のアップロードは分子レベルの課題あり。2030年代終わりには成功が予測される。
・脳のアップロードが成功したかの判定、人物の同一性の特定の課題あり。

(5) 衝撃……

・脳だけでなく、人体2.0。ナノボットで体内器官の強化・交換が可能となる。
・人体の多くの部分は交換、代替が可能。残るのは、骨格、皮膚、生殖器、感覚器官、口と食道上部、脳。
・ナノボットで、VR・感覚器官と脳の関係も変わる。
・老化や病気の問題を90%解決すれば、平均寿命は500年、99%なら1000年になるだろう。自己のバックアップも可能になる。
・人間の本質がソフトウェアなら、「精神のファイル」の寿命は、ハードウェアの永続性には依存しない。
・情報の寿命は、誰かが気にかけている間は持続する。
・戦争の形態:自己組織化する小型ロボットの群れが重要になる。ナノテクベースの兵器も。
・学習の概念は、知識等を脳にダウンロードできるようになれば、変わるかもしれない。

(6) わたしは技術的特異点論者だ
・技術で改良された人間は、人間なのか、ポストヒューマンなのか。
・未来の機械は、感情や精神を宿すのか。「意識」はあるのか。
・意識の実在を決定的に裏付ける客観的な検証法は、ひとつとして存在しない。
・個人のアイデンティティの問題。脳がアップロードされたら、私なのか。脳のパターンに過ぎないのか。
・人の構成要素は、分子レベルでは入れ替わる。私とは、持続的な物質とエネルギーのパターン。
・では、コピーができたら、それは私なのか。いや、私は依然としてここにいる、いることができる、ので違うはず。

※原書は2007年に刊行。本エッセンス版は2016年現在で、古い記述はカット。
AIは2045年に人類の知性を超える、その道筋を、脳の仕組みとリバースエンジニアリングに絞って再構成。

まとめ

本書は特に第4章以降の脳の再現にかかわる部分で、具体的な記述が増えてきて、学ぶところが多くあります。やや古い本であることを割り引いても、AIの進化の方向性やそれによる影響を考える上で、大きなヒントになるでしょう。

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