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『サピエンス全史』レビュー ― 人類史の理解に有用

サピエンス全史・レビュー

『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ)のレビューです。

目次

『サピエンス全史』の読み方

著:ユヴァル・ノア・ハラリ, 翻訳:柴田裕之
¥3,960 (2023/10/29 00:41時点 | Amazon調べ)

日本語タイトルは「サピエンス全史」ですが、元の原書タイトルは単に「Sapiens: A Brief History of Humankind」、つまり、「人類の略史」です。「全史」というほど大げさではありません。

実際、人類の歴史全体の包括的な解説ではなく、著者の視点での見解が述べられているものです。本書だけで人類史の全てを網羅的に理解できるわけではありません。

私個人としては、印象に残ったのは上巻の前半部分の人類進化の歴史の部分です。初めて知ったことも多く、生物学と歴史学の境界が見えて興味深かったです。

一方で、中盤あたりからは、他の本で読んだことのある話も目立ち始めました。

特に、貨幣についての考察・説明は、金融・経済の専門書を読んだほうが良いと思われます。

本書の読み方としては、客観的な事実と、著者の主観が入り混じって区別しにくい部分も多いため、事実と著者の主張を分けて読むことが重要と思います。

また、本書をきっかけにして、興味を持った部分については、他の専門書を読んで知識の補充・補正をすることをおすすめします。

サピエンス全史:読書メモ

私の個人用のメモです。本書を読んでいて気になった箇所のポイントをメモしました。(あくまで私自身のメモであるため、内容の信頼性については責任を持てませんのでご了承ください)

【上巻】
1部:認知革命
・人類とサピエンスは別とみなす。サピエンスは人類の一部。
・ホモ・エレクトス(東アジア)は200万年も生き延びた。サピエンスがそれを超えるのは難しいのでは。
・人類は他動物よりも未熟な状態で生まれてくる。手助けが必要だが社会に順応させることも可能。
・人類が食物連鎖の頂点に移れた主要因は火の利用。調理で食物の範囲拡大、消化能力向上。
・サピエンスの支配過程として、交雑説(ネアンデルタール等と)・交代説では、交代説が、人種差別的ではなく、受け入れられてきた。
 ただし、交雑説の要素を示す証拠も残る。実際は中間的でグレーではないか。
・サピエンスは、7-3万年前に突然変異により認知機能が向上した(認知革命)。
・そこで、柔軟な言語を獲得し、社会性を伴い、支配的となったと考えられる。
・噂話により、互いに親密で、安定した秩序を維持できる集団の規模は昔から150人程度。
・大きい規模の組織を維持できるのは、共通の「虚構」(宗教、通貨、法律、法人など)を信じるから。
・サピエンスは、遺伝子の突然変異がなくても行動変容ができるようになった。生物学と歴史の分岐点。
・今の人類は、狩猟採集民の頃の生活に適応し進化したもの。当時女性は複数の男性と関係する共同体で子供の父親不明。
・狩猟採集民は、我々が想像するよりも豊かで、時間の余裕があり、高度な道具を使い、多様性もあった。
・宗教的な理由や、生き延びるために、殺し合いなどもあった。
・狩猟採集するサピエンスがオーストラリア・アメリカ等の大陸に上陸し、多くの動物が絶滅し、生態系が変わった。

2部:農業革命
・農業革命は史上最大の詐欺。平均的な農耕民は貧しく余暇も少なくなった。人口爆発と飽食のエリート層を生んだ。
・小麦はサピエンスを操り繁栄したと言える。サピエンスも個人は貧しくなったが、人口が増えたためDNAとして成功。
・農耕民は、定住し、子供も増えたことで、人口が増え、貧しくなった。贅沢に慣れた面もある。
・家畜も、数が増えたため、種の繁栄としては成功だが、自由がなく不幸になった。
・狩猟採集はその日暮らしだが、農耕は時間軸が長く、未来の予測が重要で、気候の影響を受ける。
・都市化で協力のネットワークができた。「神話」の共有に基づく(ハンムラビ法典、米国独立宣言など)。
・想像上の秩序、想像上ではないと思い込ませる要件:物質的であること、欲望と連動、共同主観的であること。
・農業革命後、都市では、大量の情報の保存・処理が必要になり、書記が生まれた。当初は数字など。
・奴隷制やカースト制などのヒエラルキーは、想像上の秩序で、生物学的な必然性はない。
・地域ごとにヒエラルキーの構造が違うのは、歴史的偶然から、既得権が発生し、根付いたにすぎない。
・身分差別を正当化するため、宗教的神話、科学的神話が無理やり動員された。差別による偏見は固定化した。
・男女差は、生物学的な差と、文化的な差は別。文化的な男性優位が続いた根拠ははっきり分からない。
(男性は生殖相手の女性を探すため競争的、女性は妊娠中は男性に依存、という仮説も、他の動物では違う)

3部:人類の統一
・特定のものの考え方や習慣により、人同士の協力も可能した。この人工的な本能のネットワークを「文化」と呼ぶ。
・文化は内部矛盾や外部要因により絶えず変化する。不協和こそ文化の原動力でもある。「純正」は意味がない。
・世界はグローバル化、統一化の方向に向かう。
・貨幣は多様な形で使われた。現在はコンピュータ上のデータが90%以上。貨幣は効率的で普遍的な相互信頼の制度。
・貨幣の価値がグローバルで共通化して広がった。多くの人々が信じていることを信じるのが合理的だったから。
・貨幣には邪悪な側面もある。伝統や道徳が損なわれる場合がある。
・帝国の定義は、民族・文化の多様性と変更可能な国境。軍事や大小は必須要件ではない。
・帝国は過去2500年で最も一般的で安定した政治組織だった。
・帝国は崩壊しても新たな帝国ができた。制服された民族は吸収された。
・帝国のサイクル:小集団が帝国を確立する→帝国文化が創出される→帝国文化が被支配民に採用される
 →被支配民が、共通の帝国の価値観の名において、対等の地位を要求する→帝国の創建者たちが支配権を失う→帝国文化が繁栄と発展を続ける
・21世紀は特定の国・民族ではなく、全人類の利益を守ることが政治の指針とされる。全世界が対象のグローバル帝国となる。

【下巻】
3部:人類の統一(続き)
・宗教は、貨幣・帝国と並んで人類を統一する要素。超人間的な秩序の信奉に基づく、人間の規範と価値観の制度。
・宗教は、いつでもどこでも正しい普遍性と、人々に広める宣教が求められる。
・仏教は、神ではなく、「苦しみは渇望から生まれる」という自然の法則への信仰。
 キリスト教などとは違う。
・資本主義・共産主義も「自然の法則」への信仰という意味で宗教といえる。
・宗教とは、超人間的な秩序の信奉に基づく人間の規範や価値観の体系。
・人間至上主義として、自由主義的(キリスト教)、社会主義的、進化論的(ナチス)の3種。
・歴史は二次のカオス系。予想が反映されるので予測不可能。
・歴史を学ぶのは未来の予測のためではなく、視野を広げ、多様な可能性があることを知るため。

4部:科学革命
・研究・力・資源の循環で科学技術は進歩する。政治・経済との相互支援。
・近代科学の特徴:進んで無知を認める意志、観察と数学の中心性、新しい力の獲得(開発のこと)
・ニュートンの力学は森羅万象の新たな理解の形。
・より複雑な事象は統計学が生み出された。保険業から始まり人口統計学、遺伝学まで適用。
・科学とテクノロジーは別物だった。結びついたのは19世紀から。原子爆弾が例。
・支配者達は新しい技術の開発に熱心ではなかった。資本主義と産業革命で大きく変わった。
・科学の発展は、資金が必要。政治経済宗教と関連。科学の優先順位もそれに影響される。
・帝国の発展は、科学の貢献による。日本の近代化も西洋の技術を手本としたから。
・欧州の科学の発展は、探検と征服にもとづく。地理・動植物・気候・言語学など。
・帝国は科学を利用し、征服を支配する権利の根拠を正当化。文化主義。
・資本主義・信用の創造で経済全体のパイが拡大した。
・アダム・スミス「国富論」は社会に変革をもたらした。利益の再投資が根源。
・株式会社が自前で植民地を建設。政府が言いなりになる事例も。アヘン戦争。戦争自体が商品にも。
・資本主義は、効率的だが、公正さを保証できない。奴隷など倫理の欠如も正当化されうる。
・エネルギーと原材料は枯渇するのか。技術革新で、逆に使用できる量が増えた。
・蒸気機関は、熱エネルギーを物理的な運動に変換した。それまでは人体だけが可能だった。
・蒸気機関は、石炭から、織機から機関車に応用。原子力、石油、電気も重要。
・産業革命は、エネルギー変換の革命。エネルギーは枯渇しない。太陽エネルギーも使える。
・エネルギー革命により、原材料の探索が進み、不足も解決。農業の機械化への恩恵も大。
・現代は、供給が需要を上回る消費主義の時代。不必要な物を売りつける。
・富める者は投資をし、裕福でない者のは不要なものを買う。
・資源は枯渇しないが、生態系は悪化していく。
・近代の労働は、時間表と製造ラインがテンプレート。公共交通機関が重要。
・放送が始まり、意識が秒単位に移行した。
・産業革命前は、生活の基盤は、家族・コミュニティだった。通信・交通の発展で一変した。
・国家・市場が力を持ち、個人が強くなった。
・国家・市場は、想像上のコミュニティを生んだ。「国民」「消費者」だ。
・近代社会は「変化し続ける」ことが唯一の明確な特徴。
・現代は過去に例のない平和。統計を見れば分かる。暴力が減ったのは国家が台頭したから。
・1945年以降、帝国は平和的に早期撤退を選択してきた。世界に秩序をもたらした。
・現代では、戦争はデメリットが大きい。平和が経済発展をもたらす。
・文明は人類を幸福にしたのか。両論あり、長い期間を通してみると単純化できない。
・幸福の尺度自体が変動しうる。富は実際に幸福をもたらす。病気は悪化する場合不幸を感じる。
・温かいコミュニティは幸福度に影響する。現代はコミュニティの崩壊で幸福度が減った面もある。
・幸福度は、持てるものに満足するほうが、欲しいものを多く手に入れるより重要。
・幸福度は期待により決まる。広告やメディアに左右される。他者との比較で不幸を感じる。
・生化学的には、幸福度は、生存・繁殖が尺度になるが、一定のレベルの収束する傾向がある。
・生化学的に見れば、歴史は、幸福度には影響しないと言える。
・唯一、生化学システムを変える技術により、幸福度が変わると言える。
・一方で、幸福には、認知的・倫理的側面も指摘される。子供の世話は苦痛だが幸福の源泉など。
・現代で支配的な宗教は自由主義であり、主観が重視される。宗教により幸福の見方は変わる。
・過去の歴史書は幸福度について検討してこなかった。

・21世紀のサピエンスは、自然選択から知的設計への移行により、従来の限界を越えようとしている。
・知的設計の形態:生物工学、サイボーグ工学、非有機的生命工学。
・生物工学では、遺伝子の操作など。現代では、遺伝子工学の可能性の一部しか利用していない。
・ネアンでルアール人の復元や、さらに優秀なサピエンスの創造も可能性がある。
・サイボーグ工学では、補聴器・人工網膜、義足義手などから、脳と神経系の操作に発展。
・非有機的生命工学としては、コンピュータのプログラムやウィルスなど。脳をコピーすることが検討されている。
・これらにより、法律や倫理の枠組みも変わる。将来はサピエンス自体が作り変えられる可能性もある。
・未来のことは予測不可能。「私達は何になりたいのか」あるいは「何を望みたいのか」が重要。

まとめ

人類史の概要の把握、理解を深める意味では、多くの人にとって有用であると思います。ただし、本書だけでは、理解のバランスが取れない可能性があるため、他の専門書も読むと良いでしょう。

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